「星の王子さま」3種/わたしの好きな本

外は雪。
こんな日は「星の王子さま」が読みたくなる。

さいしょに、この本を読んだのは、
わたしがまだ、こども、と呼ばれていたころ。
ヘビにかまれて死んでしまった王子さまを思って泣いた。

『星の王子さま』(サン=テクジュペリ作/
内藤濯(あろう)訳/岩波書店/1962)

(内藤訳・P119)
「たいせつなものは目に見えないんだよ・・・・」

「花だっておんなじだよ。
もし、きみがどこかの星にある花がすきだったら、
夜、空を見あげるたのしさったらないさ。
どの星も、みんな、花でいっぱいだからねえ」

「夜になったら、星をながめておくれよ。
ぼくんちは、とてもちっぽけだから、
どこにぼくの星があるのか、きみに見せるわけにはいかないんだ。
たけど、そのほうがいいよ。きみは、ぼくの星を、
星のうちの、どれか一つだと思ってながめるからね。
すると、きみは、どの星も、ながめるのがすきになるよ」

「ぼくは、あの星のなかの一つに住むんだ。その星のなかで笑うんだ。
だから、きみが夜、空をながめたら、星がみんな笑ってるように見えるだろう。
すると、きみだけが、笑い上戸の星を見るわけさ」


わたしは、星をながめるのが、すきになった。

岩波書店の内藤濯訳の『星の王子さま』を手に入れたのは、
わたしがもう、こどもと呼ばれなくなった、ころ。
その後も、かなしいときやさみしいとき、
「星の王子さま」を手にとった。
こんな雪の降る夜にも、ね。

読むたびに『星の王子さま』はちがう姿をみせる。

ことしになって、池澤夏樹さんと倉橋由実子さんの新訳で、
あたらしい『星の王子さま』がたてつづけに出た。
どちらも、わたしが好きな作家だ。

『新訳 星の王子さま』(アントワーヌ・ド・サンテクジュペリ/作
倉橋由実子/訳 宝島社/2005)


(倉橋訳・P111~)
「きみたちはほくのバラの花とまるでちがうね」
と王子さまは言った。
「きみたちはまだ何者でもない。
誰もきみたちを仲良しにしたわけじゃないし、
きみたちも誰かを仲良しにしたわけじゃない。
ぼくがはじめてあの狐と会ったときと同じだ。
狐はほかの十万匹の狐と変わらなかった。
でも彼を友だちにしたんだから、
今ではこの世に一匹しかいない狐だ」
そういわれてバラたちは恥ずかしい思いをした。
「きみたちは美しい。でも空しい。
人はきみたちのために死ぬ気にはなれない。
そりゃぼくのバラだって、ただの通りがかりの人が見れば、
きみたちと同じようなものだと思うかもしれない。
だけど、ぼくのバラはそれだけで、
きみたち全部を一緒にしたよりもずっと大切なんだ。
だって、ぼくが水をやったんだからね。
覆いガラスもかけてやったし、衝立で風も防いでやったんだからね。
毛虫も(二つ、三つは蝶になるようにそのままにしてたけど)
殺してやった花だから。不平にも自慢話にも耳を傾けてやったし、
黙っているときでさえも耳を傾けたんだから。
彼女はぼくの花なんだ」

それから王子さまは狐のところに戻ってきた。
「さようなら」と王子さまはいった。
「さようなら」と狐がいった。
「おれの秘密を教えようか。簡単なことさ。
心で見ないと物事はよく見えない。
肝心なことは目には見えないということだ」
「肝心なことは目に見えない」と
王子さまは忘れないように繰り返した。
「あんたのバラがあんたにとって大切なものになるのは、
そのバラのためにあんたがかけた時間のためだ」・・・・


星の王子さま』(アントワーヌ・ド・サンテクジュペリ著/
池澤夏樹新訳/集英社/2005)


(池澤訳・P94~)
「星がきれいなのは、
見えないけれどどこかに花が一本あるからなんだ・・・・」

「砂漠がきれいなのは」と王子さまは言った、
「どこかに井戸を一つ隠しているからだよ」
砂漠が放つ光の秘密がいきなり明らかになったみたいで、
ぼくはびっくりした。まだ小さかったころ、
ぼくはとても古い家に住んでいて、
その家にはどこかに宝物が埋められているという言い伝えがあった。
もちろん誰もそれをまだ見つけていなかったし、
ひょっとすると、誰も探してもいなかったかもしれない。
でも、そのおかげで家ぜんたいがすてきになった。
ぼくの家はその心の深いところに秘密を隠していた・・・・・
「そうか」とぼくは彼に言った。「家でも、星でも、砂漠でも、
きれいに見えるものは何かを隠しているからなんだ!」


本の最後のことばば、こころに染みしおる。
 
(倉橋由実子訳『新訳 星の王子さま』P146~147)
まったく不思議なことだ。誰も見たことがない羊が
誰も知らないどここかでバラの花を食べたか食べなかったか
ということで、この世界のすべてが違ったふうに見える。
それはあの王子さまが好きなあなたにとってもだ。
空を見てごらんなさい。羊が花をたべたのか、
食べなかったのかと考えてごらんなさい。
そうすれば、世界がどんなに変わるかがわかる。
そして大人は誰も、それがどんなに大切なことか、
けっしてわからないだろう。


倉橋由実子さんは、この本を訳した直後の
2005年6月10日に亡くなった。

外は雪。
わたしは「星の王子さま」を読んでいる。
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