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上野千鶴子さん、東京都に「督促状」を送付>

「上野千鶴子さん講師排除事件」の速報です。

この事件で「講師として不適切」となざしされた
当事者の上野千鶴子さんが、関係自治体へ公開質問状を
1月13日に送付していらっしゃいました。

上野千鶴子さんが東京都に公開質問状/毎日新聞(1/14付)

東京都・国分寺市への「公開質問状」(1/16付)

「回答期限は1月31日」とされていましたが、
現在まで、なんの応答もないようです。

この対応に対して、上野さんが関係自治体に
今日「督促状」を送付されました。
以下に、全文を紹介します。


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2006年2月7日

東京都知事殿
東京都教育長殿
東京都教育委員会委員長殿
東京都教育庁生涯学習スポーツ部社会教育課長殿
国分寺市市長殿
国分寺市教育長殿
国分寺市教育委員会委員長殿
国分寺市教育委員会生涯学習推進課長殿

 2006年2月6日の時点で、1月末日に期限を設定した1月13日付け公開質問状に対する回答をいただいておりません。この手紙は再度時限を切って、文書による回答を督促するものです。次回の期限は2月20日とします。
 この期間にメディアの報道等によって、新たな事実関係が確認されましたので、それにもとづいて、質問の内容を変更します。したがって回答は、この督促状の指摘にもとづいて返答してください。

 事実関係については、
1)計画取り消しの意志決定を行ったのは国分寺市であり、その責任者は国分寺市教育
委員会生涯学習推進課長、熊谷淳氏であること
2)その意志決定を迫ったのが東京都であり、その責任者は東京都教育庁生涯スポーツ部社会教育課長船倉正実氏、および担当者は人権学習担当係長森川一郎氏、主任社会
教育主事江上真一氏であることが判明しました。それぞれの行政の最高責任者である国分寺市長と、東京都知事の責任については言うまでもありません。

 国分寺市教育委員会生涯学習推進課長から東京都教育庁生涯スポーツ部社会教育課長に宛てた平成17年8月17日付け事務連絡(添付資料)によれば、国分寺市事業の取り下げについて、「両者協議の上」という文言があります。またメディアの取材に対して、以上の事実経過については、国分寺市、東京都ともに事実を認めており、それについては争いがありません。

 したがって、
1)国分寺市には、計画取り下げの意志決定を行った責任があり
2)とはいえ、東京都の「介入」もしくは「調整」がなければこの意志決定は行われなかったわけですから、東京都には、依然として上野を講師として「不適切」と判定した説明責任があります。
以上の2点について、経緯を明らかにし、根拠を示してください。

 メディアの報道によれば以下のことが判明しています。
①上野教授には、「当事者主権」をテーマに初回の基調講演を依頼しようとして同(05年)7月、市が都に講師料の相談をした。しかし都が難色を示し、事実上、講師の変更を迫られたという。(毎日新聞2006.1.10)
②東京都教育庁生涯学習スポーツ部は「上野さんは女性学の権威。講演で『ジェンダー・
フリー』の言葉や概念に触れる可能性があり、都の委託事業に認められない」と説明する。(毎日新聞2006.1.10)
③都教委は04年8月に決めた「『ジェンダーフリー』という用語を使用しない」とする見解を示し、「講座がその方針に反するなら実施できない」と念押しした。(朝日新聞2006.1.28)
④都教委社会教育課は「都が委託するモデル事業である以上、都の見解に反した事業は実施できないと伝えた。中止は市が判断したのであり、都としては拒否はしていない」と話している。(朝日新聞2006.1.28)
⑤市は「講座でジェンダーフリーという用語や、関連する内容が出る可能性が否定できない」として提案を取り下げたという。(朝日新聞2006.1.28)
⑥東京都教育庁は・・・「講座でこの用語が使われる可能性があるなら実施できない」との判断を、同市に示したため、同市が提案を取り下げていた。(朝日新聞2006.1.31)
⑦都教育庁は「ジェンダーフリーという言葉だけを問題にしたわけではない」と説明している。(朝日新聞2006.1.31)
⑧石原知事は同日(1.27)の定例会見で委託拒否について「都はそういう規制を加えたこ
とはない」と述べた。(毎日新聞2006.1.28)
⑨石原知事発言録(1.27記者会見)「彼らが具体的に提唱している幾つかの事案に関して
は、とても常識で言って許容できないものがたくさんあるから。やっぱりそういう例外的な事例が、余り露骨にメディアに持ち上げられて出てくると、ジェンダーフリーの、ある正当性を持ったムーブメントでもね、私はやっぱり非常に誤解を受けると思いますよ。」(朝日新聞2006.1.31)
⑩石原知事発言録(1.27記者会見)「『ジェンダー』とか『フリー』とか言ったって英語
のわからない人はさっぱり、おじいさん、おばさんはわからんよ、そんなものは。日本語でやってくれ、日本語で」(朝日新聞2006.1.31)

 ジャーナリストの方々がこの件をとりあげ、独自に取材をされて関係者の発言を引きだしてくださったことに感謝いたします。またこの件について、都政の最高責任者である石原知事が発言したことは重要です。以上の報道に都が抗議した経緯がないことから、報道の内容を都は事実として認めたことになります。それをもとに改めて検討すれば、事態はわたしが当初認識していたよりも深刻であることが判明しました。
それについて以下に再確認したうえで、関係者の説明を求めます。

1) 取り下げの意思決定は市が行っているが、都が「難色を示し」(上記資料①)「認め
られない」「実施できない」(②③④)とくり返し、事実上の「拒否」をしたことはあきらかである。
2) 国分寺市から東京都宛の取り下げ文書のなかにも「両者協議の上」とある以上、中止の意思決定への都の関与は明白である。
3) 都の判断の根拠は、「用語に触れる可能性がある」というものであったが、さらに加えて「ジェンダーフリーという用語や関連する内容」(⑤)という発言がある。たんなる用語統制に加えて、「関連する内容」を問題にするのは「思想統制」にあたる。また、どのような発言や考え方が「ジェンダーフリーに関連する内容」に当たるのか、またそれを誰がいかなる基準で判断するのか。用語の使用禁止以上に踏みこんだ発言であり、見過ごすことはできない。
4) さらに都は「ジェンダーフリーという言葉だけを問題にしたわけではない」(⑦)と
発言している。それなら何が問題なのか。明らかにすべき説明責任がある。
5) 石原知事は、委託拒否について「都はそういう規制を加えたことはない」(⑧)と発
言しているが、以上の証拠から「規制」があったことは事実であるから、発言を訂正し、事実経過を明らかにすべきである。また石原知事が「都はそういう規制を加えるべきでない」と考えているなら、独自の判断で市に「規制を加えた」担当課長および関係者に対し、厳重に注意してもらいたい。
6) 石原知事は、「ジェンダーフリー」に対する誤解が「例外的な事例にもとづくメディ
アの持ち上げ方」によると発言した。とすれば、2004年8月の都教委による「ジェンダーフリー」使用禁止の通達が、一部メディアの偏ったプロパガンダに影響されたものであることを認めたことになる。したがって「誤解」にもとづいて「ジェンダーフリーの、ある正当性を持ったムーブメント」を抑圧した責任がある。(⑨)
7) 石原知事は「日本語」の使用を推奨しているが、上野もその考えには基本的に賛意を示している(前回別送資料1)。だが発言のなかで、「ムーブメント」というカタカナ言葉を自ら使用することで馬脚を露呈した。(⑨⑩)「テレビ」や「パソコン」はもはや「電影機」や「電脳」という言葉に置き換えられないほどにカタカナ言葉として定着しており、「ジェンダーフリー」だけが、その責めを受ける謂われはない。
8) 石原知事は発言のなかで、不用意に、「ジェンダーフリー」を分解し、「『ジェンダー』とか『フリー』とか」と二語にしている(⑩)が、「ジェンダーフリー」と「ジェンダー」とは異なる用語であり、混同は許されない。「ジェンダーフリー」の使用禁止が「ジェンダー」の用語の使用禁止に及ぶのは由々しい事態であり、国際的にも学問的にもけっして許容できない。朝日新聞報道における見出し、「『ジェンダー』使用不可 都」(2006.1.26)は重大な誤報であり、朝日新聞は直ちに訂正記事「『ジェンダーフリー』使用不可 都」(2006.1.31)を掲載した。学術用語としての「ジェンダー」と「ジェンダーフリー」とのかかる混同は、無知と認識不足から来るものであり、厳重に注意されたい。

 東京都および国分寺市の関係者の方々には、以上明らかになった追加情報を踏まえた上で、質問への回答を求めます。以上のような新しい展開を付け加える必要が生じたことは、もっぱら回答の遅延に原因があることを申し添えます。また本状は、内容証明郵便の書式に制限があり、かつ添付資料の同封が制約されるため、簡易書留郵便でお送りすることとします。

 なお、1月27日付けで東京都知事および教育庁に宛てられた女性学・ジェンダー研究者らによる抗議声明(1808筆の個人および団体の署名を伴う)によって、本件は、上野個人からの東京都および国分寺市への抗議の域を超え、「言論・思想・学問の自由」の行政による侵害をめぐる問題に発展しています。内外のメディアの注目も高く、本状に対する東京都および国分寺市の対応については逐一関係者に情報公開するつもりでおりますので誠実かつすみやかに説明責任を果たしてくださいますよう、要求いたします。

上野千鶴子
東京大学大学院人文社会系研究科教授

cc人権を考える市民の会/毎日新聞社/読売新聞社/朝日新聞社/日本経済新聞社/産業経済新聞社/東京新聞社/共同通信社/時事通信社/ジャパンタイムズ/日本女性学会/日本女性学研究会/日本ジェンダー学会/ジェンダー史学会/日本学術会議/内閣府男女共同参画会議/内閣府特命担当大臣(少子化・男女共同参画)
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東京都と国分寺市は、上野さんの質問状に、
回答するかしないかの返事もしないなんて、
いったいどういうつもりなんだろう。
上野さんの問いかけにも、わたしたちの抗議行動にも、
無視を決め込んで、問題をなかったことにしようというのか。
あまりの不誠実さに怒りを感じる。

なお、この事件の詳細および抗議行動については、
「東京都に抗議する!」をご覧ください。
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